はじめに
花粉症は、現代において多くの人々が悩まされるアレルギー性疾患の一つです。その治療には、抗ヒスタミン薬やステロイド点鼻薬などの西洋医学的アプローチに加え、漢方薬による体質改善も重要な選択肢となります。特に漢方薬は、年々治療期間が短縮されるという利点もあり、長期的な視点での改善が期待できます。
花粉症の診断や治療を進める上で、血液検査は有益な情報を提供します。本稿では、血液検査の意義と、それに基づく治療法の選択について解説します。
花粉症と血液検査の必要性
スギやヒノキのIgE抗体検査について
スギやヒノキの特異的IgE抗体を測定することで、アレルギーの有無を特定することは可能です。しかし、スギ花粉症が判明したからといって、すぐに花粉の少ない地域へ移住できるわけではありません。したがって、個々の症状や重症度を把握し、適切な治療を選択することがより現実的なアプローチとなります。
血清総IgE検査の意義
総IgE値は、体内のIgE抗体の総量を反映し、アレルギー体質の有無を推測する指標となります。
- アトピー性皮膚炎や喘息を有する方では、花粉症の有無にかかわらず総IgE値が高値を示す傾向があります。
- 花粉症単独の場合、総IgE値は正常値から軽度上昇することが多いとされますが、重症なアレルギー性鼻炎や他のアレルギー疾患を合併している場合はより高値となる可能性があります。
- ただし、総IgE値が高いからといって必ずしも花粉症であるとは限らず、寄生虫感染や他の病態によっても上昇することがあります。
- また、総IgE値が正常範囲内であっても、花粉症を否定することはできません。
末梢血中好酸球数の測定
好酸球は、アレルギー反応に関与する白血球の一種であり、アレルギー性炎症の指標として有用です。
- 花粉症の発症期には、鼻粘膜のみならず、血液中の好酸球数が増加する傾向が見られます。
- 症状が強くなる前に好酸球数が増加し、症状が治まる前に減少するため、定期的に測定することで治療の強度を調整する参考になります。
- 好酸球数が減少し始めれば、治療の終了時期を判断する指標にもなります。
花粉症の治療法の選択
抗ヒスタミン薬と漢方薬の比較
花粉症の内服治療には大きく分けて、西洋薬と漢方薬の二つの選択肢があります。
抗ヒスタミン薬
- くしゃみ・鼻水・鼻づまりといった症状を抑える即効性があります。
- ただし、長期的な根本治療にはならず、服用を中止すると症状が再発しやすい傾向があります。
漢方薬
- 体質改善を目的とし、アレルギー症状を根本から和らげることが期待されます。
- 年々治療期間が短くなる傾向があることが、西洋薬にはない大きな利点の一つです。
- 病態(症状の出るメカニズム)に応じた適切な処方が重要です。
症状別・体質別の漢方薬の選択
花粉症のタイプ分類
花粉症の症状は大きく**「鼻汁型」と「鼻閉型」**に分けられます。(筆者による分類です)
- 鼻汁型:くしゃみ、鼻水が多く、水のように流れ出るタイプ。
- 鼻閉型:鼻づまりが強く、鼻水がうまく吸えずに垂れ落ちるタイプ。
これらの症状の違いにより、適切な漢方薬の選択が求められます。
古典的な分類も示しておきます。
風寒型(冷えを伴うタイプ)
- 小青竜湯(しょうせいりゅうとう):水様性の鼻水、くしゃみ、咳嗽を伴う場合に有効。
- 葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい):血行を改善し、鼻づまりを解消。
風熱型(炎症を伴うタイプ)
- 越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう):特に結膜炎を伴う場合に使用。
- 辛夷清肺湯(しんいせいはいとう):慢性的な鼻閉や鼻炎に有効。
虚弱型(体力が低下しているタイプ)
- 補中益気湯(ほちゅうえっきとう):免疫力を高め、長期的な体質改善を目的とする。
- 麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう):寒がりの方や高齢者向け。
症状別の漢方薬
- 水のような鼻水・くしゃみ:小青竜湯、麻黄附子細辛湯、苓甘姜味辛夏仁湯
- 鼻づまり:葛根湯加川芎辛夷、辛夷清肺湯、越婢加朮湯
- 粘り気のある黄色~緑色の鼻水:荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)
- 目のかゆみ:越婢加朮湯
花粉症治療の重要なポイント
花粉症の診療において最も重要なのは、問診と血液検査を適切に組み合わせ、病態に応じた最適な治療法を選択することです。
西洋薬と漢方薬のそれぞれの特性を理解し、時には両者を用いて症状や生活環境に合わせた治療を行うことで、より快適な花粉症シーズンを迎えることができるでしょう。