漢方薬で血圧コントロールができるのか?

 先日来院された50代の男性から興味ある事象を教わった。ここ数年高血圧症の治療を行っているが、コロナ騒ぎの前からも不眠を訴えていた。不眠に対しては睡眠導入剤を処方していた時期もあったが、熟眠感が足りないばかりか目覚めが爽快とは言えないようであったので眠剤を中止した。

 彼の不眠の原因は仕事上の不安やイライラであったので、それらが少しでも軽減するようにと、ある漢方薬を処方した。眠前に2包服用するように指示した。服薬するようになって暫くは睡眠状態が大きく改善したとは気づいていなかったが、起床時身体が楽になったという。

 服薬開始してから一月半が経つ頃、本人がある事に気づいた。彼のスマートウォッチは睡眠状態の監視ができるそうである。ただし、その精度や測定原理については不明で有ることは否めない。漢方薬を服用して就寝した時と服用しなかった時では熟眠パターンがが異なるようであると伝えてきた。即ち、漢方薬を飲んで眠ると最初の2−3時間に深い眠りを示すパターンが出現する。しかし、服用しないと浅い眠りのパターンであったという。さらに驚くべきは、翌朝の血圧が今までとは異なって約30mmHg低下しているという。わざと、漢方薬を服用しなかった翌朝は以前と同様の高めの血圧であったという。色々と人体実験をしたあとの報告であった。

 ここで、彼の言わんとするところは漢方薬処方によって良い睡眠がとれたこと。起床時の血圧を改善できたと言うことである。科学者でもある彼が処方をした私に忖度したなどということは考える余地はない。

 漢方薬の適応症の中には高血圧症も散見するが、西洋医学の降圧薬のような効果を期待することはできない。確かに、平滑筋過緊張を減弱させる作用を持つ漢方薬もあるがそれを服用したからと言って降圧薬を中止できたと聞いたことはない。したがって、今回の漢方薬処方が血圧コントロールに寄与したのは、精神安定による良好な睡眠とその間に行われる血管の弾性回復の助けとなり、結果的に起床時の血圧改善という目に見える形となったと推測できる。

 私の知る限りでは漢方薬の本にしても、あるいは西洋医学の一般的な高血圧に関する教科書等にはこのような漢方薬の効能については触れられていない。新たな漢方薬の有用性を患者様から教わることができた。安価な漢方薬処方によって、良好な睡眠に加え降圧薬減薬の可能性が出てきたというのは、まさに瓢箪から駒が出たのである。

 彼のように几帳面にも自身の体調及びその変化をきめ細かく観察してバックグラウンドやその変化の要因について考察するということは誰にでもできることではない。まさに貴重な患者様である。

本に患者様が教科書や、とひとりごつ

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